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由加里日記

 
 

『鏡』

  1. 23:33:46

伊倉真澄美は、何も喋らない生徒に幻惑させられていた。初夏の陽光は幻覚を起こさせる。それは、したたかに、彼女の角膜を痛め付ける。あたかも、この狭い英語科準備室にふたりしかいないような気がする。そして、世界の始まりも終わりもここにしか存在せず、巨大な過去は捏造された嘘の記憶にすぎないような気がする。時間と空間はこの狭い空間にしか存在しない、外にあるのは捏造された記憶だ。
 女教師は、自分の声で妄想を焼いてしまうことにした。
「そう? ただおかしく見えたのよ」
「――――大丈夫です。なんでもありません」
 少女は俯き加減の姿勢で答える。まるで鏡に映る自分と会話しているかのようだ。
「あ、あの、帰ってもよろしいでしょうか?」
 最近の中学生にしては上品な言葉遣いと仕草。真澄美は、しかし、それを表面通りに受け取ろうとは思わなかった。
 何故ならば、あの映像を視てしまったからである。
――映像?
 いや、それは真澄美の欺瞞である。それを現実だと認めたくなかったのである。それは映像などではなく、現実に起こったことだった。
 昨日、つまり金曜日の午後、ホームルームを終えた真澄美は準備室に戻ろうとしていた。その過程でその映像と出くわしたのである。
 中一の教室が並ぶ廊下。それは、2年生の担任である真澄美には関係がない空間だった。しかし、彼女に隠されたある趣味から、帰り際の生徒たちを覗くのが密やかな趣味だったのである。
「今日は、もういないのかしら、そうね、話が長引いたし ――――」
 真澄美が目の栄養とすべき対象はほとんどいなかった。まるで巣立ちした跡のようだ。産毛の一本すら残っていない。猫に襲われた痕跡すらないのに。
―――おい、おい、まだ卒業にはほど遠いでしょう。少し、HRが長引いたからって。
 真澄美は独り、ごちた。
「うん?」
 女教師が1年B組の教室に差し掛かったとき、それを目撃したのだ。

「もう、許して・・・・」
「はやく、して」
 女生徒らしい声が地鳴りのように響いてきた。小さいのだが、決して弱くはない。一方は特徴のある声である。
 その声を聞いたとたんにあることを思いだした。
――――そう言えば、ここはあの子の教室だ。最近、見ていないが。
 前々から、見定めていた子が所属する教室だったのである。すでに他の教室は閑古鳥だったが、一番の目標は健在だった。
「どれどれ?」
 真澄美は、側に誰もいないことを確認して教室の中をうかがう。まるで、麻薬密売人を逮捕しようとしている刑事のように、慧眼を細めた。
 ずいぶん、目つきの悪い女がドアのすぐそこに立っていると思ったら、自分だった、思わず苦笑して、さらに中を伺う。
 旧くなったガラスは光を透しにくい、それゆえに質の悪い鏡の性質を帯びる。

 教室の中からは、さらに声が聞こえる。
「本当にしてきたんだ! 冗談のつもりだったのに」
「そ、そんな!!」
 真澄美は、さらに目を細めた。青白い顔がさらに色を失う。
 確かに、二人の内の一人は当該人物だった。彼女は、このクラスの人気者である。そこにいるだけで周囲を明るくするような、花のある娘 ――――だったはずである。ところが、教室の薄闇に挟まれた少女に、その面影を見つめることはできなかった。
 彼女は、少しでも動けば周囲に金粉をばらまくような子だったはずだ。
 美少女という陳腐な言葉だけでは表現しきれない、それは努力や志によって得られるものではなくて、おそらくは、生来の性質なのだろう。賜物とはよく言ったものだ。
 少女は神からの贈り物を十分に発揮して、教室中の魂を奪っていた。その恩恵は、教室全体に行き渡っていた。
 彼女を取り巻く友人たちは金粉をもらい、幸福をお裾分けしてもらっていたはずだ。外部から見ると、いわば、幸福の宅配便のようにも見えた。
 その少女が、今にも死にそうな顔で涙を流しているのだ。しかも ―――。
 スカートを捲って、もう一方の少女に下半身を晒していた。裏地であるフェルトが反射する鈍い光は、哀しい匂いを漂わせているように思えた。
 真澄美は、すこしばかり、立ち位置を改めた。
 そうしなければ肝腎の場所が見えなかったからだ。
 少女の泣き声が彼女自身の鼻を笛代わりにして、哀しみの演奏を続ける。
「ど、どうして、こんなことを・・・・・・」
「あなたが、望んだことでしょう!?」
 背中しか見えない少女はまた地鳴りのような声を震わせる。もちろん、容姿を判別することはできないのだが、何やら普通ではないものを感じさせる。
―――これは、これは・・・・・・・。興味深いものを発見したわ。おまけに他学年 ――私には直接的な関係は ――――ない。
 真澄美は類い希な美貌を歪めて、ほくそ笑む。窓は始めて、この女教師の表情らしい表情を発見することになった。しかし、すぐにさらに感情の変遷を見ることになるのである。加えて、かつて経験したことのない大震災を経験することになるのだが・・・・・。
「ちぇ ―――」
 戦国時代の忍者のような直感の鋭さで、他者の気配を読み取ると、かすかに右目のふちに皺を造った。
 次の瞬間、ドアを乱暴に開閉したのである。
 少女たちは、肉食獣の殺気を読み取った草食動物のように、こちらを見た。もちろん、ドアは閉められているために、透視能力がないかぎり、そちらを見ることはできないが、たしかに耳を側立てると額にある第三の目が開くのか、向こうのことがわかる。
 怯えた目が風に吹かれたゼリーのように震えている。
 その時、憎むべき邪魔者は罪のない笑顔と声を真澄美に投げかけてきた。
「あ、伊倉先生」
「ごきげんよう、荒川先生」
 醒めた目をエンジ色のスーツを纏った脂蝉に向ける。
―――まだ夏にはすこしばかりか早くない?地面に潜っていればいいのよ。
 自分の背丈の三分の二ほどしかない当該人物を見下ろす。何の乱れもなく、整然と、教室から立ち去っていくふたりを横目で見ながら、対象を計る。
――――興味ないわ。
 化粧が薄いのはもはや、女であることを諦めたせいだろうか。それに加えて、戦前の書生が掛けていそうな丸メガネはなんだろう。センスの欠片も感じられない。
 それだけではない。この女には中身がないのだ。口からほとばしる言葉に一切の知性と個性を発見することはできない。
 人間は外見ではないとも思うが、当該人物には肝腎のそれがないのだ。
 それは興味がないと、真澄美に判定される第一要因だ。
 そうであっても、立場上、儀礼的な言葉をかける必要がある。
「先生のクラスはみんな元気でいいですね」
「そうですか? みんなうるさいだけですよ」
 まるで少しばかり良い点を取って誉められた小学生のように、頭を掻く。
「ところで、先生はB組の担任ですよね」
「ええ、そうですよ」
 脂肪だらけの豚の腹が笑った。この時、あまりに魯鈍な脂蝉は、かすかに真澄美の笑顔がくすんだことに気づかなかった。
「そうですか ――――」
「・・・・・・・・」
 真澄美は、たまらなくなってエンジ服の脂蝉女を後にすることにした。あくまでにこやかな笑顔を湛えながら・・・・・・・。
「ちい、もういなくなったの? まあいい、お楽しみはこれからということね」
背後に消えた物体のことなぞ意識の底にも残さずに、エモノのことを考えていた。
 ちなみに、真澄美は言外にこう言っていた。
――――先生のクラスにいじめはありますか?
 まったく魯鈍と言うほかに彼女を表現する方法がなかった。真澄美の意図を読めないばかりか、自分のクラスにいじめが存在することも推し量れないのである。これでよく教師が勤まる。
真澄美は呆れるより他に、感情の表現方法を知らなかった。

 今は、彼女は舌舐めづりしたい気分のはずなのだ。しかし、この重苦しい空気は何だろう。露、まっただ中の風呂場のように鬱陶しい。

 一方、少女としては身体を縛られた上に、猛獣よろしく、檻に閉じ込められた気分である。自分の生殺与奪はすべて彼女の手にあるような気がする。
  少女は、もう一度、口を開いた。
「お、お願いです、もう、帰ってもいいですか?」
 それもそのはずである。真澄美は、彼女の学年とはちがう学年を担当しており、部活動等、その他の活動でも生活を共にしたことはない。その教師に、気遣われても動揺するだけだろう。
 実は「ちょっと、大丈夫?」と声を掛けられてこの準備室に連れ込まれただけのことなのだ。

 一方で、ちょっとだけ嬉しかったことも否定できない。なんと言っても、自分が見上げているのは、とうてい教師とは思えない美貌の持ち主なのである。それも、女優やタレントと言ったありがちな暗喩では表現できない ――――もしも、適当な表現があるとすれば、封建時代において、特権階級を平民が仰ぐようなそんな雰囲気であろうか。
 

 ともかく、少女は憧れの存在を目の当たりにして戸惑っていたのである。
 
真澄美にしてみれば、自身の欲望を抑えるのに必死だった。
「わかったわ。だけど、何かあったらいつでも相談しにきてちょうだいね。私はいつでもここにいるから」
判決を言い渡すような真澄美の言葉に、少女は上目遣いで返した。
「・・・・・・・・・・・」
 真澄美も無言で返す。しかし、痺れを切らしたのか、今度は少女から質問してきた。
「もしも、ですよ、私に何かあるとして、どうしてそれがわかるんですか?」
 少女の注意深い物言いに、微笑むと女教師はすぐさま回答した。
「当たり前でしょう? 教師なら生徒の心なんてお見通しよ、たとえ担任じゃなくてもね、池内みづえさん」
「・・・・・・・・・」
 少女は呼吸することも忘れてこの美しい教師を見上げた。

  それから、数ヶ月、少女はこの女教師に救いを求めてきた。しかし、どんなに辛いことを打ち明けても言うことはひとつだった。
 「それは、あなたが解決しなければいけない問題です。大人が権力を使ってねじ伏せても誰も言うことを聞きません、聞くとすれば表向きだけよ ――――」
 真澄美は、少女をただ観察することに決めたようだ。
 そして、しばらく経ったある日のこと ―――――――。
 
「はじまったわね ――」
 真澄美はノートパソコンのモニターを睨みつけた。
 ここは、彼女の自家用車。とあるサービスエリアに止まっている。 
 彼女の視線の先は、ここから数キロ離れた中学校にある体育館準備室に向かっている。そこには彼女が目をつけた少女、みづえが映っている。
 制服姿の少女は何処か滅亡寸前の鳥を思わせる。最後に残った一羽。哀しげに鉄格子の外をうかがっている。二重三重の保護を受けながらもまったく自由がない、その姿からは哀愁が漂っていた。
 やがて、渇いた音がした。扉が開いて少女が入ってきた。みづえから話を聞いている。秦菜摘という同級生である。
 

 彼女と少女たちを結ぶ線は、とてもか細い。10センチあまりの小型カメラとパソコンを繋ぐUSB無線機に尽きる。しかし、そのデジタルな連結は、二つの世界の結婚をしっかりと保証しているのである。
 
カメラは、学校備品としては貴族にあたるボール入れに仕込まれている。こうして、少女は一人知れず、この映像を生で手に入れることができているわけだ。
 モニターの中から聞こえてくる声は、いやおうにも女教師の好奇心を刺激する。菜摘は、みづえを跳び箱に座らせて、大腿を広げさせている。股関節に浮き出た骨は、それだけでも十分に官能的だが、下半身全体を覆う黒タイツは、少女の芽吹いたばかりの性をさらに肉感的なものにしている。実年齢よりも大人びているように見えるのは錯覚にすぎないのだろうか。
 菜摘は、そこに鼻を近づけてクンクンとさせているわけだ。
「ァァァ・・・・いや」
「ふふ、可愛いわ、みづえちゃん」
 真澄美は微笑んだ。美少女の視線がみづえと合致したような気がしたからだ。その乞うような視線は、何を求めているのだろう。
  救出。
 ―――いや、そんな簡単なものじゃない。
 真澄美はそう思った。
「本当に、臭うわ、今日で3日だっけ? みづえちゃん、こんな汚い場所を触るんだから手袋しないとね ――――ふふ」
「ああ、もうもう、いや」
 キュキュという音は、ゴムのおむつを彷彿とさせる。幼い頃、母親に下の世話をされたとき、そのような音と匂いが浮遊していたと記憶している ―――ような気がする。例え、人に先んじて優れていた真澄美であっても、二歳ぐらいのことをはっきりと憶えているわけがない。
 父親の話によると、ただ、一回だけおむつを換えたことがあるそうだ。
 もしかしたら、ファザーコンプレクスと結びついたゴム、それにおむといったアイテムが、真澄美に性的な刺激を与えるのだと、勝手な心理分析を行っている。
 
 菜摘は手袋を嵌めた手を少女の恥部に這わせた。そして、下着とパンストの上から膣のスリットを探しあてると、布地ごと奥に差し入れた。
「あぐぐぐ・・・・・いやぁぁぁ!」
 女性用の下着やパンストは本当に薄い。しかしながら、性的に敏感な部分はそれを文字通りには受け取らない。いや、受け取れない。他の神経受容体よりも数十倍にみなすことは実験で明かになっている。
 その結果、普通よりも数倍の刺激を感じているわけだ。
「すごい臭いね、それに奥からいやらしい液がどんどん浸み出てくるし、みづえちゃん、何もしてなくても、感じてたんじゃない?」
「ち、ちがう ・・・・・・」
 激しくいやいやをして、菜摘の言葉を否定する。しかし、彼女は意に介さない。
「お、お願いだから・・・・・」
「何がお願いなの?!」
「あああう!?」
 菜摘は、みづえの両足首を?むと、上部に振り上げた、当然のことながら、赤ちゃんがおむつを替えられるような姿勢になる。まさにあられもない姿が真澄美の前に展示される。
「ふふふふ」
 真澄美は悪魔的な笑いを浮かべた。
 驚いたことに、都合良く隠しカメラの方向に、少女の恥部がフォーカスされたのだ。これは偶然だろうか。
 菜摘は、さらに足首をひっくり返し、脹ら脛までもが顕わになった。既に、頭を超えている。
「うう、・・イヤあああ、アアア・・・ウ・ウウ・ウ・!?」
 みづえは幼児のように泣きじゃくる。
「こうされたいんでしょう!? みづえちゃんは」
「はあ、ハア・・・・」
 なかなかまともな返事をしないみづえに痺れを切らしたのか。
「みづえちゃん!!」
「ひい、痛い!?」
 菜摘の指が、性器の奥深くに侵入した。
「言うこときかないからよ、処女膜がキレちゃってもしらないからね」
「はあ、はあ、アア・ア・ア・ア」
 さらに念を押す・
「はあ、はあ、つ、罪深い、みづえの、いやらしくて臭いお、おまんこを罰してくださ、でも、でも!」
 真澄美は、みづえのノートを思い出した。確か、そこには同じ文面があった。
「ふふ、こうして憶えさせたわけね」
 菜摘は、さらに言葉による責めを続ける。
 「でも? そりゃ、三日も洗っていないここが臭いのがわかるけどさ、あれ? それともこの臭いは、そもそものみづえちゃんの臭いなのかな?洗わなくても臭うでしょう!?」
 「ち、ちがう、でも、そんなことより・・ウ・ウ・ウ・・ウウウ・アア・・ア・ア」
「そんなことより?」
 念を押す菜摘は本当に楽しそうだ。まるでカエルの解剖を行う医学生のように、筋肉や腱の反応を観察している。
「ああ、あんなことを、言わせないで!!アアア・・ア・ア・アああ、ほ、本当に、私、みんなに嫌われちゃう!!ぁぁあああああ!?」
「もう、あなたは本当に嫌われているのよ、もう、遅いわ。私はあなたの本当の姿をみんなに教えてあげたわけ」
「本当・・・・・・!?」
 不本意そうに可愛らしい口を歪める。整った鼻梁が侮辱と恥辱に歪む。大きな瞳は濡れた長い睫によって隠されようとしている。
 整った容貌は、年齢よりも当該人物を大人びて見せるものだ。
 しかし、みづえはそうではない。子供らしさと美貌が見事に同居している。その点、菜摘は逆である。鼻ぺちゃで膨らんだ頬は、幼児を彷彿とさせる。しかし、その双眸の奥に光る大人は、たしかに、この少女の容貌を他と違うものにしていた。
 大人と幼児の不思議な同居は、夫婦の同居離婚を思わせる。それは、少女の精神状態を暗示しているように思えた。
「ウウウ・ウ・・ウ・・ウウ、もう、いや、あんなこと言わせるなんて、河原崎君かわいそう!ウウウウ!」
「嘘でしょう!? あなたが可哀想に思っているのは自分自身でしょう? こんなにいやらしくて、恥ずかしい女の子なのにね! 私は許せないのよ、誰にでも愛されたいって言うあなたの態度が!!」
 平手打ちがみづえの上品な頬に炸裂する。その音はモニター越しにも確かに聞こえた。
「い、痛?!ウウ・・・ウ・ウ、菜摘ちゃん」
 菜摘は蔑むような視線を送る。それは強いシグナルになって少女を痛め付けた。
「そんなに私に愛されたかったの!? それも嘘でしょう!?」
「嘘じゃない!! ウウウ!! 嘘じゃないわ?!」
 一見、菜摘は面食らったように見えた。
それを見聞きした真澄美は、キーに手を掛けるとエンジンに火を入れた。
「そろそろ、真打ちの登場ね ―――」
モニターの中では、さらに寸劇が進行している。


車のエンジン音は軽やかな音を立てて、真澄美を地面と平行に移動させる。まだるっこしい片仮名の名前があるらしいが、詳しいことは知らない。父親からのプレゼントだから、素直に受け取って運転しているだけだ。
真澄美は、泣きながら事の次第を話すみづえを思いだしていた。
「菜摘さんは、誰も友だちがいなかったから、私はせめて、きっかけになろうとしたんです。私を介して、少しでもみんなの輪に溶け込めたらいい ―――そう思って」
 意を決したみづえは、個人的に菜摘に連絡を取ることにした。トイレや放課後、誰もいなくなった教室などで、密かに話しかけようとしたが他生徒の邪魔が入ったり、彼女からの激しい拒否をされたりして、なかなかうまくいかなかった。
しかし、ある日、勇気を出してある行動に出た。
 彼女が個室に入ったところを見定めて、上部から侵入を果たしたのだ。これは、人気者のお嬢さんで通っているみづえからすれば清水の舞台から飛び降りるのに等しい行為である。
 この時ばかりは、菜摘も面食らった。
「これから、したいんだけど」
「じゃあ、約束してくれるね」
 半ば、強引に約束を取り付けた。
 それは、日曜日だった。菜摘のマンションというのがその場所である。認証が必要な高級マンションだったが、エントランスを通るに当たって、受けた冷たい印象は一戸建てに暮らすみづえならではのものだったかもしれない。
彼女の家ならば、玄関を人目見ればわかる。そこには彼女の母親が愛情を込めて造った花々がこの世の春を謳歌している。
比べて、近未来の住居かホテルのようなエントランスに、そのような温もりは感じられなかった。加えて、秦家の玄関たる出入り口を見ても簡素なただ住まいはかわらなかった。他家では、コサージュをあしらったりして、集合住宅なりに個性というものを備えさせているのに。
 単に、ドアがあるだけである。
 おそらく、入居時から変わらないのだろう。

 居間に通されると、みづえは、開口一番にこう質問した。
「ご両親はいらっしゃらないの」
 菜摘によると、両親は仕事のために外国に常駐している。そのために、名目上の保護者は兄になっている。しかし、その兄も同じく仕事のために、日本中を飛び回っている。何の仕事をしているのかまでは聞き出せなかった。
 菜摘はこう言った。
「どうしてほしいの」
「みんなに溶け込んでほしいの、もしも、私が間に入れたらいいなあと思って・・・・・」
 最初から激しい拒絶にあった。しかし、それでも食い下がるみづえ。それに飽き飽きしたのか、ついにこう言わせた。
「わかったわ、だけど条件があるの、試しにあなたと友だちになりましょう」
「それはよろこんで」
 みづえは自分の思いが達成できたような気がした。しかし、それではすまなかったのである。
「私の言うことなんでも聞いて」
――――どうして、そうなるの?と聞きたくなった。
「へえ、それは偽善よ。どうしても私と仲よくなりたいんでしょ?」
―――でも、それは話が違う。
 いつの間にか話が入れ変わっていた。
「それなら、私以外の子たちと仲良くしていればいいじゃない、これまでとうりにさ。でも、どうしても、私と友だちになりたいんでしょう? それは嘘なの? 本当に非道い人ね。 まさに偽善だわ。人の心を弄んで!!」
 そう言うと、床に伏して泣きじゃくり始めた。みづえもこれには驚いて、思わず、菜摘の要求を呑んでしまった。
 ただし、欲求が命令に変化するのは時間の問題だった。
 クラスの友人たちとの約束を三分の一にすることや、二回に一回は大好きなテニス部を休むことなど、些細なことだった。
 しかし、ストローから零れる程度の流水が、破壊的な土石流を呼ぶように、みづえを取り巻く環境はしだいに変わっていくことになった。
 親しかった友人たちと疎遠になっていく。それは予想よりもはるかに速いスピードで進行していくガンのようだった。
 しかも、命令はそれだけではなかった。ノーパンで登校するようになど、性的な内容にまで踏み込んでいく。いつしか、完全に菜摘の奴隷になっていた。
 気が付くと、みづえの周囲に誰もよりつかなくなっていた。その代わりに菜摘が脚光を浴びるようになったのである。
 それは、みんなでカラオケに行こうという話になったときのことだ。放課後のことだったが、そこには菜摘が居合わせていた。彼女は目で、合図した。
――――断って。
 仕方なく断りの言葉が少女の口から零れる。
 すると、友人の一人が試しに、菜摘に声をかけたのだ。誰しも驚天動地という四文字熟語を思い出すことになる。
 菜摘は、はにかみながらも「うん、お願い」と答えたのだ。それには、みづえも驚いた。この結果、彼女の完全孤立が決定的になってしまった。もはや、誰も彼女に声を掛ける者はいなくなった。
 もはや、いじめと言ってもいい状況だったが、みづえ自身、それに気が付かなかった。もしかしたら、そうしたくなかったのかもしれない。自分が他人に嫌われるなどということは、体験したことはおろか、想像すらしたことがなかったから・・・・。
  そうなると、菜摘の命令は限度を超えて残酷になっていた。一週間、下着を替えないことを強要されることは、あたりまえのこと、菜摘に言われるままにオナニーをさせられることすらあった。
 最近では、毎朝、局所にゆで卵を挿入して登校させられ、放課後に食べさせられるようになっている。
 この事態を何とかしようにも、みづえが幸福であることを確信している両親には相談できなかったし、もはや、周囲に友人は誰もいなかった。人気者の孤独地獄は、こうして、始まったのである。

 今、真澄美は、体育館に入ったところである。ちなみに、修理中のために部活動は行われていないし、侵入禁止である。
 真澄美にはそんなことは関係ない、ただ、気になっているのは、みづえのあの台詞である。
「何を言わされたというのかしら」
 女教師は、準備室の戸を叩く。
「ヒ!?」
 みづえは悲鳴を上げたが、すぐに、機敏な知性によって、自分がすぐに救われることを悟った。しかし―――。
 菜摘は、まったく、動揺していない。あたかも、この事態を予測していたようにである。
 ふいに、鋼鉄製のドアが叩かれる音がした。三回。
 すると、菜摘は立ち上がって施錠を解いたではないか。
――――え? 誰かクラスメートを連れてきたの?
 みづえは生きた心地がしなかった。しかし、彼女の予想は崩れることになる。それが彼女にとって幸せなのか、否なのか。
「え? せ、先生!?」
 なんと、目の前にノートパソコンを携えた真澄美が立っていた。
 「みづえちゃん、聞きたいことがあるんだけど ――――」
 女教師は言う、しかし、少女はまったく質問に答えない。いや、答えられない。すると、菜摘が横から割って説明をはじめた。
 「河原崎君って言う男子がいるんですけど」
 「たしか足が不自由らしいわね。それでも体育祭でひとり、完走してみんなの拍手を一身に集めていたわ」
 「みづえさんたら、彼にひどいことを言ったんですよ、わかるでしょう?」
 以前の寡黙な菜摘の姿は何処にもない。あれはみんな演技だったとでも言うのか。
 せめてもの抵抗、いや、自分が置かれている状況を把握するために言葉をぶつけてみた。
 「ど、どういうことなんですか?」
 真澄美は、あっさり答える。同時に、少女の胸と顕わな性器に触れながら・・・・・・。
「こういうことよ、あれから、私が彼女とコンタクト取らなかったと思っていたの? でも、本当に、あなたは非道い人ね。誰からも愛されたいなんて、欲張りよ。そういう人は誰の愛も失うのよ。でも、私たちだけは愛してあげるわ ――」
 それは、みづえにとっては意味不明な言葉だった。しかし、二人にとっては完全に明解だったのである。
 少女は、感じたことのない官能の海に溺れながら、自分の人生が180度、変更されたことを知った。



 
 
 
 

『由加里日記○月○日』

  1. 14:56:52


 最近、香奈見ちゃんたちの様子がヘン。

 今日は、学校も部活もなかったから、みんなでカラオケに行った。このごろ、なかなか唄わせてもらえないのは、いつものことだったけど、やっと、香奈見ちゃんは、マイクを渡してくれた。しかし、前奏が始まって、いざ唄おうという段になって、おかしいことがおこった。
 
 みんな、部屋から出て行くのだ。私はたまらくなって聞いてみた。
「どうしたの?みんな ―――――――」
「トイレに行きたくなっちゃって、いいよ、由加里ちゃんは、唄ってれば ――」
 やがて、みんないなくなってしまった。私は、哀しくなって、唄うどころではなくなってしまった。だけど、音楽が終わるころには、みんな戻ってきて、怒るのだ。
「どうして、唄ってないのよ! ただじゃないのよ! そうなら、唄わないでよ!」
「そんな ―――――――」
 私は何も言えなくなって立ちつくしていた。

「私、唄う!」
 誰かが、私からマイクを奪い取った。私の知らない間に、次ぎの唄が始まっていた。たしか、私の好きな唄だったと思うけど、よく憶えていない。

 それから、どうやって家に帰ったのか憶えていない。気が付いたら、自分の部屋にいて、次の瞬間、夕ご飯を食べて、お風呂に入っていた。次ぎに意識が戻ったのは、着信を聞いたときだ。香奈見ちゃんのメールだ。

 今日は、どうしたのよ!ひどいじゃない!?これから、ああいうことはしないこと!迷惑だからね、親友で、幼なじみだと思って、聞いてよ、みんなに謝りのメール送っておくんだよ!

――――ひどい!どうして?香奈見ちゃん!
 携帯が濡れてたけど、どうしてなのか、わからない。

 
 
 
 

『由加里日記○月○日』

  1. 23:31:46



 朝のHRまでの休み時間、私はいつものように一人でした。誰も挨拶をしてくれないし、こっちから挨拶をすると、無視されます。
 それなのに、その日、「なんで、挨拶しないのよ!」と罵られました。

 無視されるのがわかっていて、全員に「おはよう」を言って周ります。とても惨めでした。しかも、海崎さんたちの命令によって、アソコの中に、卵が入っているために、礼をする度に、それが蠢いて、私を責めるのです。まるで、衆人環視の場所で、オナニーをさせられているようです。何粒も涙がこぼれます。そのたびに、「汚いな!拭きなさいよ!」と罵られます。

 屈辱的な礼が終わると、やっと自席に座ることを許されました。
 私はひとり、泣いていました。みんな、私が存在しないかのように振る舞います。友達どうし、にこやかに話しています。
 私は、ひたすら、一人で泣き続けました。

 しかし、香奈見ちゃんが話しかけてきたのです。

――――え?許してくれたの!?と淡い希望を持ちました。
 何も悪いこともしていないのに、罪悪感を感じてしまいます。
「ねえ、西宮さん ―――――」
 やはり、姓でしか読んで貰えません。「由加里!」って呼ばれていたころが懐かしいです。
「昨日、みんなで、木下遊園地に行ったのよ、新しくできたスーパーデンジャーっていうのがおもしろくてさ」
「香奈見ったら、恐くてチビちゃったくせに!」
「ちびっていないわよ! ・・・・・・・でも、さ、ゆか、西宮さんにも誘いのメール送ったはずだけど、連絡こなかったよ、どうして?」
 わざとらしく聞く。メールなんか送ってくるはずない!
 それでも、彼女は、私の肩を抱くと、携帯を取りあげます。何処にあるかは知っているのです。鞄の中にあります。

「あ」
「見せてよ!あれ?送ったメールないじゃない!?どうしたのよ!」
  そんなもの最初からあるはずない!でも、いちゃもんをつけてくるのです。
「ひどいヤツ、だから嫌われるんだよ!」
他の子まで、私を罵りはじめます。
「そうだね、消すほと、私たちのこと嫌いなんだ?容量はいくらでもあるのに、消す必要ないよね」
「痛い!」

 香奈見ちゃんは、私の髪を無理矢理に引っ張ります。小学校のころ「由加里の髪、奇麗だね!」とほめてくれた髪です。あれから、細胞は入れ代わったかもしれません。でも・・・・・・。
「ちょっと!何を黙っているのよ!」
 何か、硬い物が、私の頬をもうスピードで、襲いました。香奈見ちゃんの平手打ちです。鉄棒で殴られたのような衝撃が走ります。
「・・・・ウ・ウ・ウ!」
 私は打たれた頬を押さえて、ただ泣くだけでした。
 クラスメートは、みんな見せ物を見るような視線を送ってきます。私は一体、何なのでしょう?普通の女の子なのに!みんなと同じただの中学生なのに!
「謝りなさいよ!」
 いつもこの言葉を突きつけられます ――――――。
もう展開は見えているのです。でも、これに従うのは嫌。私はなにも悪いことしていないのに!
 でも、そうすると情け容赦ない暴力が待っています。
「謝りなさいよ!」

「ごめんなさい ――――」
 私はようやく、その言葉を絞り出しました。乾いたぞうきんの中には、水は全く残っていなかった。でも、絞りだした。そうするしかなかった。ぞうきんの中には、まったく水はなかったのに、涙が止め留め無く出てきます。何処かで読んだ学術書に、涙は、他人に同情を催させる効果があるって書いてありました。でも、私の涙は、逆の効果しかないようでした。
「泣いて、許してもらえたら、ケーサツはいらないよな!」
 男子までが、私を責めます。
「ただ、謝ってすむと思うの?」
「そうよ! そうよ!」

 みんな口々に賛成します。私はどうしていいのか、わからず泣いてるだけでした。
「土下座して謝れ!」
 誰かが言いました。私はなにも考えずにそれを実行していました。
「ホントにやったよ、こいつプライドないよね、あはははは!!」
―――こういう風に言いなさいよ。
 由加里ちゃんに囁かれました。その言葉はとても屈辱的なことでした。
「今日一日、工藤さんたちの奴隷になりますから、許して下さい ―――」
「それほど言うなら、許してあげるよ!今度のことは」
香奈見ちゃんたちに、頭やら手やら足やらを踏まれました。私は恐くて、ひたすらに土下座していました。





 
 
 
 

由加里日記○月○日

  1. 00:02:07

「先生としても、本当に困ってるんだけど ――――」
  大石先生に、国語科準備室に、呼び出されると、いきなり告げられました。
「わかってるのよ、あなた、嫌われているのよ!」
「・・・・・」
  私は先生の厳しい言い方に何も言えなくなってしまいました。
「わかる?!あなたみたいな人が、クラスにいると問題が起きるのよ、グループ分けなんかそうでしょう?あなた、誰にも班に入れてもらえないじゃない!そんなことなったら、誰が迷惑すると思っているのよ!」
「・・・・・・・」
「答えなさいよ!泣いてないで!」
「先生です ―――――」
「本当に、わかっているの!?申し訳ないと思っているの」
「はい ―――――――」
  涙で、先生の顔が見えなくなりました。
「夏休みのキャンプの件、どうするの?」
「だ、誰かに入れてもらいます ―――――」
「無理だって言ってるでしょう!?あなたはゴキブリみたいに忌み嫌われているのよ!」

 忌みという言葉が、グサリと来ました。涙と嗚咽が止まりません。いっそのこと、このまま呼吸が止まればいいと思いました。
「で、誰が入れてくれそうなの?あなたみたいな嫌われ者を、入れてくれる奇特な子がいるのかしら?」
「・・・」
「誰?」
「・・・」
「私は聞いてるのよ!!」
  教科書を投げつけられました。まるで鉄板のように思えました。
「誰も・・入れてくれません・・・・」
「誰が悪いの?」
「わ、私が悪いんです」
「じゃ、今日から、毎日、全員に頼みなさい、HRの時に聞きますからね、ちゃんとあなたが頼んだか?」
先生は、私がいじめられていて、そんなことを頼みようがないのを知っていて言うんです。ほんとうにひどい先生です。

 その時、部屋に高田さんが入ってきました。
 先生は、残酷に言うんです。
「ほら、さっそく来たわよ ―――――――」
「・・・・・・・・・」
「西宮さん!!」
  まるで雷鳴のような刺激を受けました。心臓が止まりそうな思いをしました。本当に止まったらどんなに楽だったろうか?
「た、高田さん、わ、私をキャンプの班に入れて下さい」
「いやだよ」
「そうね、高田さんにも友達を選ぶ権利はあるわね、でも困ったものね、高田さん」
「先生の大変さも、察してあまりあります」
「まったく、大人みたいないいかたして!」
「あははっは」

 まるで、友達みたいな、先生と生徒の関係です。どうして、私たけ、その関係から外れているのでしょうか?
 「西宮さん、これからHRまで時間があるから、それまで、女子全員に頼みなさい!解っていますね!」
「そんな・・・・・・はい、わかりました」
 泣きながら、振り絞るように言いました。高田さんはせせら笑っています。どうして、私がこんな目にあわないといけないのでしょう?どんな罪を犯したというのでしょう。

 教室に帰ると、まるでゴキブリを見るような視線を送ってきます。近づくだけで、いかにも嫌そうな顔をされます。それでも、私は先生が恐くて、言いました。
 たまたま、側にいた原崎有紀さんに、
「は、原崎さん、わ、わ私を、キャンプの班に入れて下さい・・・・・・」
「やなこった」
「当たり前よね?何?私に入れろって言うの?!冗談じゃないわよ!!」
 似鳥さんに言われました。
 その後、女子全員に同じコトを言って、同じように拒否されました。一番、 辛かったのは、香奈見ちゃんに、「あんた誰?」と言われたことです。
 
 しかし、一番辛かったのは、HRの時でした。
 似鳥さんがこう発言したのです。
「私は、西宮さんに頼まれていません!」
「そうだよ!香奈見ちゃん、頼まれていないよね!」
 みんな同意します。
「西宮さん!?あなた、自分のことがわかっているの?どんな身分か?さ、言いなさい!!」
「・・・このクラスで、忌み嫌われています!」
 私は言い終わるなり、泣きじゃくりました。しかし、まだ先生は許してくれません。
「動物に例えるなら、どんなかんじ?」
すぐに、ゴキブリと言われたことを思いだしました。
「ご、ゴキブリです」
「あはははは」
 先生もクラスメートもみんな笑っていました。本当に地獄でした。


 
 
 
 

『由加里日記○月○日』

  1. 23:58:14


 今日は、日曜日。海崎さんと鋳崎さん、そして、いつもの二人で、新宿に行った。いつものように、ゆで卵をアソコに入れて、京王線の駅に向かう。
 最初に、個室トイレに連れ込まれた。身体障害者用のトイレなので、五人が入っても、十分なくらいにスペースが取ってある。ただ、健常者なのに、こういうところを使うのは気がひけた。しかし、鋳崎さんにひどいことを言われた。
「そうだ、西宮だけは健常者じゃないよね、淫乱の変質者だったわよね」
「・・・・・・・ハイ・・」
 私は素直に頷くしかなかった。みんな笑っていた。
 言いつけ通りに、卵を入れていることに、海崎さんたちは満足そうだった。 スカートを振り上げて、恥ずかしいアソコを見せびらかしている姿を、写真に撮られた。笑うまで、ひどい暴力をされた。いつもことだけど、見えないところ、例えば、太腿とかに、押しピンで刺されたりした。何とか笑うことができた。

 「これに着替えてよ」
 それは、小学生用のテニスウェアだった。なんでも、鋳崎さんが小学校、それも低学年の時に身につけていたウェアだと言う。
 いくら、鋳崎さんが大きいと言っても、小学校のときの、それも低学年のころのウェアだ。その小ささは想像できると思う。ちきちきのウェアは、体中の到るところに、食い込んでくる。
 私は、死んだ気分で、それを身につけた。トイレには、大きな鏡が設えてあるために、恥ずかしい姿を見せつけられる恰好になる。少しでも屈んだりでもすれば、恥ずかしいところが、丸見えになってしまいそう。

「今日のお散歩に、相応しい音楽を用意してあげたよ」
 そう言って、海崎さんから渡されたMP3。イヤフォンを填める。すると聞こえてきたのは、私の恥ずかしい声だった。何と、私がアソコをいじられて、興奮している声を録音したものだった。
「西宮さんが、オナニーしてくれないから、こうなるんだよ」
 海崎さんは、満面の笑みを浮かべていた。とてもステキな笑顔だった。とても魅力的な人なのに、どうして、こんなひどいことをするんだろう。
新宿に着くと、私は、四人と少し離れて、歩かされた。
「あんたみたいな変態と一緒にされたくないもんね」とは鋳崎さんの言だ。

 命令のやりとりは、常にメールの送受信という形で、行われた。
メールを見ると、「もっと、お尻を振りなさい」とか「そこで屈むのよ!」とか勝手なことが書かれていた。私はいちいち従う。
 周囲の好奇の視線が全身に突き刺さる。いや、胸とか股間とかに、それは集中しているように思える。そこがだんだん熱くなっていくのだ。
 私は変態なのかな?鋳崎さんが言うように。変質者なのかな? 普通の女の子と違うのかな? だから、友達がひとりもいないのかな? 

 一日の終わりは、やはり身障者用のトイレだった。
「オナニーしてよ、もしもしたら、食べなくていいよ」
 海崎さんは、そう言ったけれど、私は食べるほうを選んだ。もう、味なんてわからない。卵の味なんてしなった。いや、卵の味を忘れてしまっていたかもしれない。
「今日もネットに載せる画像がイッパイ撮れたね」
「日曜日に、変態娘が見れるってネットで、流しているんだよ、知ってる?! あんた、ネットで有名になってるのよ、嬉しいでしょ? 露出狂としては! あははっははは!」
 みんな嘘だって知ってる。だけど、言葉はそれだけで人を傷付ける力を持っている。
私は、今日、何度傷付けられたろうか?
 もしかしたら、いじめられるようになる前、私は、誰かを知らないうちに傷付けていたのかな?これは、その報いなのかな?!




 
 
 
 

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